【脱炭素】へ突き進む世界 歩むその先に待つものは?

 脱炭素化とは、地球温暖化の原因となる温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすることを目指していく動きのことを指します。2020年10月の臨時国会の演説で、菅首相が「2050年を目途に温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」という脱炭素社会への所信表明を行いました。実質ゼロとすることをカーボンニュートラルと言いますが、CO2を始めとする温室効果ガスの排出量から、森林などによる吸収量を差し引いたり、CO2を回収して地中に埋めたりといったことを行ってカーボンニュートラルを目指していきます。

 脱炭素社会を目指すということは、企業にとってはコストアップの要因となり、競争力が弱まるのではという考え方もありました。しかし昨今では、脱炭素への取り組みが遅れる場合には生き残っていけない、つまり脱炭素化に積極的に取り組み、目標や成果を自主的に発信していかなければならない世の中になってきており、この流れが止められないものになっている具体的な事例を見ていきたいと思います。


 まずは大手石油会社の2つの事例を見てみましょう。米国石油メジャーのエクソンモービルという100年以上も事業を継続してきた会社で5月に歴史的な大転換が起こりました。物言う株主と言われるエンジン・ナンバーワンが推薦する環境支持派である取締役3名がエクソン社の取締役として選任されたのです。より正確に言うと、エクソン社が選任せざるを得ない状況に追い込まれたという方が正しいと思います。エクソン社のウッズCEOは株主からの提案を支持すれば「当社の前進を脱線させ、配当を台無しにする」と5月26日の株主総会の直前まで企業側への賛同を取り付けようとしていましたが、最終的には世界的に著名な投資家でありエクソン株を約6%保有する第3位の大株主ブラックロックやバンガードなどの大株主がエンジン側の賛同へ回り、脱炭素派の取締役3名が選出されました。また同じく5月にはオランダのロイヤルダッチシェルが環境保護団体に敗訴するという事件も起きました。ロイヤルダッチシェルは、温室効果ガス排出量を2030年までに20%減らし、50年までに実質ゼロとする方針でしたが、それでは不十分だとして裁判所が2030年までに2019年比で45%の排出量削減を命じたのです。裁判所がこのようなことを企業に命じたことも非常にサプライズな出来事になりました。


 このような企業の例に留まらず、5月18日にはIEA(国際エネルギー機関)が衝撃的な脱炭素の工程表を発表しました。そもそもIEAは石油や石炭といった化石燃料の安定供給を目的とした機関ですが、化石燃料投資の即時停止、風力・太陽光発電1,000ギガワット/年の増設、石油・石炭火力発電の廃止(20年後)など、自分たちの歩んできた道と真逆の提言をし始めたのです。

風力・太陽光発電1,000ギガワット/年と言われてもピンとこないと思いますが、世界最大規模の原子力発電である柏崎刈羽原発で8ギガワット/年ですから、この原発と同程度のものを世界中で125基作っていくということなので、再生可能エネルギーをどれだけ増やせと言っているかが分かると思います。


 日本は米国の働きかけに応じて2030年の温室効果ガス削減目標を引き上げましたが、これは各国でも同様の動きがあります。2030年までに、日本は2013年比46%削減、米国は2005年比50%削減、EUは1990年比55%削減と、相当突っ込んだ削減目標を掲げています。ただ一番太っていた時の体重を基準にダイエット目標を設定しているので各国バラバラ感はありますが、それでも相当な数値だと思います。


 世界的に投資家もIEAも化石燃料にNOを突き付けた結果として今後どういったことが起きてくるのでしょうか。化石燃料の利用停止は先進国では環境推進ということで聞こえはいいのですが、アジアの新興国では安価な石炭火力への需要は根強く、新興国は石炭火力を止めない可能性があります。仮に日本が支援を打ち切ったとしても中国が発電所から送電網まで新興国の設備を掌握すれば、アジアのエネルギー政策において中国が大きな影響力を持つようになります。また価格面でいえば、化石燃料の供給側が減ったとしても、世界的に燃料転換が進まなければ需要は落ちずに化石燃料の争奪戦が起きて価格が高騰する可能性もあります。コロナ禍で飛行機のジェット燃料の需要が一時的に落ちていますが、いずれコロナが終息した後の旅行需要の盛り上がり次第では、北海ブレントやWTIなどの原油価格が引き上がる可能性もあります。今後の世界的なエネルギー覇権やエネルギー価格の変動に注視しつつ、脱炭素化への歩みをしっかりと見極めていく必要がありそうです。


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