【EVバッテリー】「環境に優しい」の裏側にある課題 #38

 


 電気自動車(EV)が温室効果ガス排出量の削減など環境に良いことは周知の事実だと思います。完全EVやハイブリッドなどのEV関連の自動車は、環境に対する意識の高まりから、世の中でも急速に受け入れられている印象があります。実際、米運輸省の統計で米国では200万台のEVが走行しているとのことです。全体からすればまだまだ小さいものの、これは4年前の3倍の数値で、急速な広がりを感じます。環境への貢献の他に米国政府はEVに関して最大7,500ドルの税控除を行っており、一部の州ではこれにさらに上乗せするという手厚い補助金が用意されています。

 環境問題の意識が米国よりも高いと言われている欧州では、EUで320万台、英国で80万台のEVが走っており、世界で最もEVが浸透している国としては中国があります。中国では、世界のEVの半数以上を製造しており、既存EVのおよそ半数である580万台が走行しているとの中国政府の推計があります。


 実はこのEVの浸透に伴って、中国では深刻な環境問題が新たに生まれつつあります。それはEVバッテリー問題です。EVバッテリーには毒性があり、汚染力が極めて強いという問題が明らかになってきたのです。2020年には中国では20万トンのバッテリーを廃棄処分せざるを得なかったようですが、今後4年間で年率40%を超える割合で廃棄が増加し、80万トンに達するという中国政府の予測が出ています。

 EVバッテリーには、コバルトやニッケルなどの重金属が含まれていて、土壌や水、空気を汚染するマンガンも含まれています。現在、マンガンを粉砕するなどして粉塵が飛び散るマンガン汚染への対応を中国(特に広東省)では余儀なくされています。粉砕などせずにバッテリーを地中に埋めたりそのまま放置しておけばよいということを考える人もいるかもしれませんが、バッテリーのリチウムイオン電池が劣化してしまうと、膨張や液漏れなどが生じる状態になり、フッ化水素などの有毒物質が生じます。北京大学のWu Feng教授によると、「20グラムの携帯電話用の電池一つで、標準的なスイミングプール3つ分の水を汚染し、陸地に廃棄されれば、1平方キロメートルの面積を50年にわたって汚染する」と述べています。

 あまり失敗を認めようとしない中国が、バッテリーのおよそ半数が不適切に廃棄されてきたことを認めており、廃棄の厳格化に着手しているとのことで、問題の深刻さを浮き彫りにしています。


 また数年前から米国ではEVの衝突事故によるバッテリーの発火事故が起こっています。事故現場に到着した消防局の方によると、車に搭載された約550kgのリチウムイオンバッテリーに亀裂が入り、充電済みの高熱を帯びたセルが路上に飛び散り、大きく損傷したバッテリーが1.5メートルの火を噴き出していたとのことです。満タンの充電で平均的なアメリカ家庭の電気を2日半以上賄える電気量と同じだけの電池を搭載しているため、人を即死させるには十分な量と言われているように、もちろん運転手は死亡しましたが、鎮火後も車やバッテリーからシューシューと音が鳴り続け、レッカー会社は感電を恐れて、音を立て続ける車を乗せることを拒否したと言います。メーカーのエンジニアが現場に到着し、バッテリー内のセルを1つ1つ取り出し、高圧配線を取り除き、ようやく事故処理をしたわけですが、この間ハイウェイが6時間も閉鎖されたとのことです。


 EVバッテリーの廃棄や発火による問題は今後EVが増え続けることでさらに大きくなることが予想されます。韓国の現代自動車は2024年にインドネシアでバッテリー製造を開始し、年間15万台のEVの電池需要を賄うことが可能と発表しました。インドネシアに広大な鉱山があり、安価なニッケルを豊富に調達できるという理由で、今年から工場が稼働するようですが、安易に安いからという理由で環境汚染を助長するEVバッテリーを増やし続けることは看過できません。EVバッテリー向けのニッケルなどの需要は今後も高まることが見込まれており、安いから、売れるからという理由だけで増やし続けるのではなく、遠くない将来の問題としてバッテリー問題を解決していく必要があります。


 EVで先頭を走る中国で生じた問題は、日本を始めその他の国々に対する明確な警鐘であり、単純にEVの数を補助金で増やすといった施策だけに留まらず、EVの増加に伴う将来のバッテリー問題にも補助金を出すなどして適切な対応を取っていく必要があります。EVが環境にとって良いことは間違いないのですが、こういったEVバッテリーの問題が明るみに出始めたこともあり、今後はテクノロジーの進化などでEVバッテリーから毒性物質が取り除かれ、よりよい廃棄方法が見つかることを願うばかりです。


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