【ウクライナ情勢】 緊迫化する米ロ関係と周辺国の思惑 #60



 ロシアによるウクライナ侵攻の可能性が高まる中、ウクライナ情勢の緊迫化を受けて各国の在ウクライナ大使館の職員やその家族への退避命令が出されています。ウクライナ在住の邦人数は200-300名といわれていますが、日本の企業でも伊藤忠商事や住友商事などから退避指示が出ています。どうしてロシアはウクライナに侵攻する必要があるのか、その歴史的な必然性を紐解き、米国や欧州周辺国の動向について考察してみたいと思います。



 10万人規模のロシア軍がウクライナ国境に集結したのが昨年11月で、その後12月から年をまたいで米国とロシアのオンライン首脳会談、NATO(北大西洋条約機構)を交えた協議が続けられていますが、いずれにおいても話し合いが進展せず、いつでも戦争に突入しそうな状況です。何が進展していないのかを一言で簡単にまとめると、「ウクライナをNATOに加盟させない保証が欲しいロシア」と「NATO加盟国の不拡大に関する約束をしない米国」が対立しあい、合意に至っていないといえます。確かにウクライナがNATOに加盟するかどうかは、米国が関与すべき問題ではなく、ウクライナ自身が決めるべきことのように思いますが、これにはNATOの設立目的や今までの経緯を見ていく必要がありそうです。


 NATOとは、1949年4月4日に調印された欧州(西側諸国)と北米による政府間軍事同盟のことで、加盟国への外部からの攻撃に対して相互防衛に合意する集団防衛システムのことです。第二次世界大戦後、共産主義のソビエト連邦(ソ連)と西側諸国の対立が激しさを増す中で、英米が主体となりNATOが誕生しました。結成当初は、ソ連を中心とする共産圏(東側諸国)に対抗するための「反共主義」と「封じ込め」を目的としたものでしたが、1985年にソ連トップとなったゴルバチョフが経済・政治・言論の自由化を進めたことで、ソ連周辺の共産主義国であった東側諸国にも東欧民主化革命が起こり、東側諸国でもNATOへの加盟が進みました。特に1989年、東西ドイツを隔てていたベルリンの壁の崩壊という事実は東欧革命を象徴する出来事であり、長年にわたって繰り返し報道されてきたことからも皆さんの記憶の中にもあると思います。


 当時ソ連の勢力圏にあった東ドイツが東西ドイツとして統一される際に、ゴルバチョフはそれを許可するために、NATOを統一ドイツより東に拡大しないことを米国に約束させました。1991年12月のソ連崩壊によって冷戦が終結した後、米国が約束を破ったのか、東欧諸国がNATOに加盟したいと思ったのか、色々な思惑が交錯した結果、ソ連の勢力圏にあった東欧諸国が続々とNATOに加盟し、NATO加盟国が当初の12か国から30か国に倍増しました。この倍増した国の中にソ連の勢力圏にあったチェコ、ハンガリー、ポーランド、スロバキア、ルーマニア、ブルガリア、スロベニア等があり、特に2004年にはバルト三国(リトアニア、エストニア、ラトビア)もNATOに加盟しました。ご存知の方も多いかもしれませんが、バルト三国は、かつてソ連の一部を構成していたことから、バルト三国のNATO加盟は旧ソ連国の一部が反ロシア軍事同盟に参加したと驚きを持って受け止められました。

 2004年当時すでに大統領だったプーチンは、この時からずっと、約束を破った米国を憎んでいるといわれています。さらには、今回の主題であるウクライナ(ロシアの西の隣国で旧ソ連国)、ジョージア(ロシアの南西の隣国で同じく旧ソ連国)までもNATOに加盟させようとしているというのが、プーチンがウクライナに侵攻しようとする理由です。ここまでNATOが近づいてくると緩衝地帯がなくなり、ウクライナがNATOに加盟すれば、モスクワを5分でミサイル攻撃できるようになるため、ロシアの脅威は非常に大きくなります。


 また、なぜこの時期にプーチンがウクライナ侵攻を考えたかについては、大きくは3つの理由があると思います。1つ目は、中国による台湾侵攻の可能性が出てきたタイミングだからです。米国は、中国との覇権争いに資源を集中させたいところ、ウクライナで有事になっても手が回らないとロシアが考え、今なら米国から譲歩を引き出せると考えた可能性があります。ここでの譲歩とは、既述したウクライナをNATOに加盟させない保証のことです。

 2つ目は、ウクライナ内部でも2014年2月のマイダン革命から親ロ政権が倒れ、親欧米新政権が誕生した後、ロシアがウクライナからクリミアを奪い、ロシア系住民の多いウクライナ東部のルガンスク州、ドネツク州が独立を宣言するなど、ウクライナで内戦が始まりごたごたが続いていました。これに乗じてロシアは両州の独立を認めることと引き換えに自国に有利に運ぶように侵攻のタイミングを見計らっているのだと考えられます。

 3つ目は、欧州諸国のエネルギー事情です。この真冬というタイミングもエネルギーを大量に消費する時期ということで関係がありそうです。実はロシアは石油が世界3位、天然ガスが世界2位の生産量を誇っていて、欧州諸国は天然ガスの4割をロシアからの輸入に頼っています。ロシアから地続きの欧州諸国にはパイプラインでエネルギーが供給されていますが、ロシアがエネルギーの供給を止めると、欧州諸国では他国から船などでエネルギーを輸入する必要があります。パイプラインを利用せずに他国から調達するとなると輸送代金の上乗せや世界的に需給関係がタイトになることからエネルギー価格が上昇することは必至です。脱炭素の流れもあり世界的に電力不足といわれるこのタイミングは、ロシアにとって格好のタイミングといえます。


 欧州はエネルギー供給をロシアに頼っていることもありますが、特にドイツはロシアに近い関係者が多いとされている社民党が与党になったことで、ドイツはロシア寄りではないかと見られています。実際に、ウクライナからドイツに武器供給をお願いしたところ、ドイツは「軍用ヘルメット5,000個を供与する」と1月26日に発表し、ウクライナの首都キエフのクリチコ市長は「言葉を失った」と失望感を示しました。ドイツでは社民党と連立を組んでいる緑の党が平和運動に関係が深いため、武器輸出には距離をおいたのかもしれません。

 一方でイギリスはNATO加盟国に対してイギリス軍を増派する意向を示していて、ジョンソン首相はプーチンとの電話協議や東欧諸国への訪問も発表して、事態の正常化に向けてかなりの積極姿勢です。この対照的な動きを見ていると、欧州諸国は制裁に向けて一枚岩になりきれていないという状況が見てとれます。


 また現状のロシア経済はインフレ加速と通貨安で苦しさを増しています。1月24日には、ロシアの中央銀行がドルなどの外貨購入の一時停止を発表するまでになっています。外貨を買ってルーブル売りを止める思惑ですが、ウクライナ侵攻が進めばさらなる通貨安もあり得ます。現状においても米国の経済制裁などが効いているわけですが、プーチンがウクライナ侵攻を決断すれば、より強力な経済制裁が科され、ロシア経済は壊滅的な打撃を受けると思われます。

 私たちには遠い国で起きている出来事に思われるかもしれませんが、ロシアが小麦の輸出市場において世界シェア17%、ウクライナが同12%なので、場合によっては世界の約3割の小麦が輸出されない事態になることから食料品価格への甚大な影響も予想されます。実際に小麦価格は上がり続けていて、エネルギー価格とともに私たちの生活に直結することは間違いありません。

 

 米国はロシアとの対立姿勢が明確で、すでに大量の武器や弾薬をウクライナに送っています。そして、より強力な経済制裁をちらつかせてロシアをけん制し続けています。これが吉と出るか凶と出るか分かりませんが、もしロシアが一歩を踏み出してしまうと多くの人命が失われ、経済的にも世界に打撃を与えることは必至です。

 現状ではウクライナはNATO加盟国ではないため、NATOに対する集団防衛義務はありませんが、もしウクライナがNATO加盟国となり、ロシアと戦闘になれば、米国を始めとした他の加盟国は自動的にロシアと戦争状態に突入することになります。領土の問題は歴史的背景が複雑で簡単に片づけられる問題ではないのは分かりますが、戦争という無益な争いによって多くの人命が失われることのないよう、一早い平和的な解決を望んでいます。


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